市民裁判員先行記第23回/司法への市民参加−ドイツとEUにおける裁判員制度

 同志社大学法科大学院/第3回国際シンポジウム/司法への市民参加−ドイツとEUにおける裁判員制度に行ってきました。寒梅館、ハーディーホールへと。
 そのプログラムは、おおよそ以下のとおり。

  • 10:00-10:15 報告者の紹介とシンポジウムの概説
  • 第一部 ドイツとEUにおける刑事裁判への市民参加
  • 10:15-10:30 ドイツにおける裁判への市民参加制度の組織
  • 10:30-11:00 日本の刑事訴訟における裁判員制度導入
  • 11:00-11:30 ドイツにおける裁判参審員制度―その背景と現状
  • 11:30-11:45 休 憩
  • 11:45-12:15 刑事裁判手続きへの参審員の影響力
  • 12:15-12:45 参審員の立場から見た刑事訴訟における市民参加
  • 12:45-14:00 休 憩
  • 14:00-14:30 裁判官から見た刑事訴訟における市民参加
  • 14:30-15:00 イギリス、スペインまたフランスにおける裁判員制度の現状
  • 15:00-15:45 ディスカッション
  • 15:45-16:00 休 憩
  • 第二部 ドイツとヨーロッパにおける刑事裁判以外の訴訟への市民参加
  • 16:00-16:45 刑事裁判以外の裁判への市民参加―民事、労働、行政裁判などを例にして
  • 16:45-17:30 ディスカッション

 いや、長かったわけですけれども、濃い濃い内容で、たいへん満足いたしました。
※注※ 以下はあくまで【情トラ】の個人的なメモをカンタンにまとめたです。私の理解不足や事実誤認などもあるはずですので、ご注意を。

◆ドイツにおける裁判への市民参加制度の組織
 【概要】
 ドイツにおいて、裁判がどのように運営されているか。

【情トラ】まとめ

    • ドイツの司法制度においては特別の地位にある連邦憲法裁判所のほか、連邦通常裁判所(民事及び刑事)、連邦行政裁判所、連邦財政裁判所、連邦労働裁判所、連邦社会裁判所という独立した5つの系統がある。
    • そのうち、刑事裁判においては参審員が、その他の裁判においては名誉裁判官が市民参加として制度化されている。
    • 特に、労働裁判所及び社会裁判所においては、三審の全てで市民参加(名誉裁判官)を含んで、裁判合議体が構成されている。

◆日本の刑事訴訟における裁判員制度導入
 【概要】
 日本における現行法の状況と、将来導入される刑事訴訟への市民参加の仕組みを概観する。

【情トラ】まとめ

    • 自由で活力のある社会を目指して、様々な構造改革を行っているが、司法改革のその一環である。
    • 見て聴いてわかる立証活動のため、図や模型などの活用も図っていくことになる。
    • 裁判員は何をするのかといえば、証拠に基づき事実を認定することと量刑を決めることである。
    • 事実認定をたとえを用いて、講演のために京都に行ったのであって、祇園で遊ぶために行ったのではないとの主張立証を考えてみる。この場合、①本講演の依頼文書や事前打ち合わせのメールのやり取りといった証拠、②会場来聴者の証言、③本講演に関する新聞報道などがあれば、十分に立証できたと思われる。しかし、③の新聞報道において「講演を終えたH氏はホッして祇園へと繰り出されたそうだ」とのコメントがあれば、逆転判決がくだることになる。これらは、社会生活を送るにあたって、一般的に行うことと何ら変わりがないことである。

◆ドイツにおける裁判参審員制度―その背景と現状
 【概要】
 ドイツにおける参審員制度の法的枠組み及び今日の状況、現在の問題について言及する。

【情トラ】まとめ

    • 参審員制度が果たす役割は、裁判判決の透明性と妥当性を確保することにある。
    • 参審員については、専門外のことについて他からの影響を受けやすい旨の反対意見や、法曹教育を受けていない人にも納得がいく判決が出てくるはずであるといった賛成意見がみられる。
    • 今日においては、男女平等参画の要請や参審員となる人びとに対する不利益的取扱いの禁止が定められている。
    • 現在の問題としては、移民から帰化した国民にドイツ語を十分に話せない者がいることや、外観からその人が信仰する宗教がわかる場合において、参審員の中立性・無偏見性と信教の自由の対立が生じることや、25歳未満や70歳以上の人びとの参審員への登用といったことが挙げられる。

◆刑事裁判手続きへの参審員の影響力
 【概要】
 参審員が刑事裁判手続に影響をどれだけ与え得るか。法と訴訟が急速に発展し続けている現状においては、参審員はそれについていけない状況になっている。

【情トラ】まとめ

    • 評議と評決については、参審院は、職業裁判官と同等の立場とされる。しかし、参審員が発言することは稀である。94%が職業裁判官と同じ意見であり、5%が職業裁判官に参審員が意見をあわせており、職業裁判官とは異なる意見を提出することは実質1%だけしかない状況にある。
    • 弁護士が裁判合議体に楔を打ち込みたいと思っても、職業裁判官から反感を持たれないかとおそれるという問題もある。
    • 職業裁判官から参審員への説示義務があるのだが、事件の内容等の理解については説示だけではクリアするのは困難であるし、また、その説示義務があるがゆえに不可避的に参審員が職業裁判官に依存する構造がある。
    • 判決理由文については職業裁判官任せであるため、参審員の意見により無罪になったケースにおいて、判決理由文のなかで、職業裁判官が検察官からの控訴を容易にするような表現を用いた事案があった(とても稀な例であるが。)。

◆参審員の立場から見た刑事訴訟における市民参加
 【概要】
 少年裁判においては、職業裁判官にとって、子どもや少年とかかわりを持つ経験のある人物がそばにいることは、たいへん意味があることである。

【情トラ】まとめ

    • 参審員としては、被告人がどういった人物であるのかについては、主観的直感に頼らざるを得ない現実がある。しかし、審判の中の被告人の行動がどうであるかといった判断においては、公私にわたる経験が役に立つことが多々ある。
    • 少年事件に関しては、量刑を考えるだけではなく教育的措置を考える必要があるが、ここが職業裁判官と参審員で最も議論になるところであり、最も参審員が裁判合議体に加わる意義があるところだと思う。

◆裁判官から見た刑事訴訟における市民参加
【概要】
 職業裁判官と素人裁判官との間での機能の分配をどのように理解すべきか。

【情トラ】まとめ

    • 公判における職業裁判官と参審員の協力がうまくいくかどうかは、職業裁判官の人柄によるところが大きいのではないか。
    • 経験に基づくシンプルで素朴な質問ことが真理に近づくことが多い。また、なぜ、その犯罪を犯したのかを解明することが大切であって、それは量刑の決定にかかわってくることである。これらについては、職業裁判官と参審員から、多面的な質問がなされることが有益だと考えられる。
    • 評議においては、参審員はだんだんと積極性を出してくるようになるが、公判審議においては、職業裁判官のほうから前もって積極的に質問等するようアドバイスしておかないと、参審員からはほとんど質問がでないことがある。これは、非日常の開かれた環境の中で変に目立ちたくない、ミスを犯したくないという消極的な気持ちから仕様がないことではある。
    • 評議においては、その発言は、若い人から年上の人、そして、公判準備をした職業裁判官、最後に裁判長という順序を必ず遵守すべきである。
    • 職業裁判官と参審員のあいだで最も議論になるのは量刑についてである。職業裁判官は、過去の事案と比較し、また、上級裁判所の判決を目安に量刑を決めるが、参審員にはそうした知識はなく、自分の関わっている事件に関する心理的衡量によって判断する。結局は、職業裁判官が比較できる事案の説明をして、そこから導き出される量刑の上限と下限を示し、その間で決定することがほとんどである。
    • 職業裁判官から、刑事訴訟への市民参加による利点を考えると、法曹教育を受けていない市民の代表者に平明に説明をし、納得を得ないとダメとされることにより、判決の透明性の確保につながるという利点が考えられる。

◆イギリス、フランスまたスペインにおける裁判員制度の現状
 【概要】
 多くのヨーロッパ諸国が、それぞれに非常に多様な形で裁判への素人の参加を認めていることは特徴的なことである。

【情トラ】まとめ

    • イギリスの陪審員は、事実認定や有罪か無罪かを決定する機能しか有していない。
    • フランスの陪審員は、量刑についても判断する。
    • スペインでは裁判官が、判決が言い渡される前に陪審員の判決の基礎をコントロールする。

◆刑事裁判以外の裁判への市民参加―民事、労働、行政裁判などを例にして
 【概要】
 ドイツの法体系においては、刑事手続だけでなく、民事手続の一定の領域においても、また、他の裁判領域(労働、行政、金融及び社会裁判管轄)においても、素人裁判官が活動している。

【情トラ】まとめ

    • 行政裁判、財政裁判(金融等)においては、特別な知識を問われないために、一般人が名誉職裁判官として裁判に市民参加する。対して、労働裁判、社会裁判においては、特定の専門知識や異なる立場の社会的均衡(例えば、経営者と労働者など)ゆえに選ばれた人が名誉職裁判官となる。
    • 裁判への市民参加の利点として、いろいろな主張がなされているが、どれも決め手になるものはないと考える。ただし、職業裁判官が有し得ない、専門知識の利用と社会的均衡の達成のためになされる市民参加には意義があるといえる。
  • まとめ

 日本の裁判員制度を考えるにあたって、多くの示唆があったシンポジウムでした。その制度内容は異なるところが多々あるものの、その目指すところや問題点となりうるところは共通しているといってよく、裁判員制度が施行された後に、本日の議論と同様の議論が日本でも起こるのだろうなという気がします。
 日本の裁判員制度は、まだまだ詳細が確定しません。そんな状況下では、こうした先行国の議論を検討するだけでも有意義なことだと思います。実際に日本でも施行されたあとには、また、日本独特の利点や問題点が生じるのかもしれませんが。
 まー、同時通訳を聴きながらの長い1日ではありましたが、それだけの価値があったシンポジウムだったというわけです。ホンマに疲れた。。