47都道府県/法務関係文献等所有状況の調査について(報告)/【情トラ】付言
以下は、次に掲げたひとつ前のエントリに対する付け加え的なエントリです。【情トラ】の個人的な感想等をまとめていますので、ご参考まで。
■47都道府県/法務関係文献等所有状況の調査について(報告)
(1)所有法学文献の総数について
【情トラ】付言
- 最多が6,000冊、最少が100冊との回答結果になりましたが、基本的に、よく活用する書籍等は、各分野(地方自治法関係、民法関係、訴訟法関係など)で、それぞれ1、2冊ずつ位ではないかと考えられます。それゆえに、あまり所有法学文献の総数の多寡は、実務には関係ない気はします。
- 特に気になるのは、普段は使用しないが、アドホックに活用する書籍(ex.年に1回ぐらい法律相談があるような問題に係る書籍)の保管をどのようにされているのかということ。また、版が新しくなり、買い換えた場合において、旧版書籍は廃棄するのか、それとも保管しておくのかといったこと等は、単純に気になるところです。
(2)直近に購入された法学書について
【情トラ】付言
- 最多は、改版時期の関係もあって、(3)の質問でも挙げられている、「松本英昭『逐条地方自治法』(学陽書房、新版第3次改訂版、2005)」でした。
- あと目立つのは、「指定管理者」関係、「改正行政訴訟法」関係、「破産法」関係、「政策法務」関係の書籍でしょうか。
- 特に「破産法」関係は、たとえば第三セクターなどの関係であったり、補助金や貸付金等による助成先企業の関係であったり、非常に多様なケースを、その処理案件として抱えていらっしゃるのかもしれません。
- そのほか、「著作権法」関係も2件ありますが、こうした知的財産関係の法学文献を必要とするケースがかなり増えてきているのではないかとも考えられます。
(3)よく活用する法学書について
【情トラ】付言
- やはり、最も多くの回答を集めたのは、「松本英昭『逐条地方自治法』(学陽書房、新版第3次改訂版、2005)」。定番中の定番といえるのかもしれません。
- 続いては、法制執務関係の書籍として、「石毛正純『自治立法実務のための法制執務詳解』(ぎょうせい、四訂版、2004)」と「前田正道 編『ワークブック法制執務』(ぎょうせい、全訂版、2001)」が、ほぼ同数の回答でした。こららも定番なのでしょうね。
- そのほかでは、いわゆる「各法/逐条解説(コンメンタール)」や、行政法及び民法の基本書が回答にあげられていました。行政法では塩野宏先生のお名前が目立ちます。
- 個人的に意外なのは、憲法に関する基本書等を掲げた回答が、「芦部信喜 著、高橋和之 補訂『憲法』(岩波書店、第三版、2002)」の1件しかなかったこと。やはり実務にあっては、それほど用いることが少ないのかもしれませんが、もっと回答にあがって然るべきなのではないでしょうか。 だからといって個人的にオススメできる書籍は何かと問われたら、、。 私自身は、ここのところ、ずっと、「憲法Cases and Materials人権 基礎編」と「憲法Cases and Materials人権 展開編」を活用していたので、これらは非常に質が高く、使い勝手がよいと評価しています。しかし、何せ基本的に法科大学院での教育目的の書籍(ex.問いはあるもののその答えは掲載していない等)なので、自治体実務で用いるには手を出しづらいといえるのかもしれません。
(4)定期購読している雑誌について
【情トラ】付言
- 各都道府県で定期購読されている雑誌の種類数を、その多寡で比べると次のとおりになります。
- 最多(多い順に5件の回答を列記します)
- 24種
- 16種
- 15種
- 14種
- 12種(2件)
- 最少(少ない順に5件の回答を列記します)
- 0種
- 2種
- 3種
- 4種(3件)
- なお、平均購読種類数は、8.5種類でした。
- 特に雑誌は、先験的な取組みの紹介や、新しい法令の解説などといった情報を得るのに重宝されていると思うのですが、それらをどのように活用されているのかは、たいへん気になるところです。
- また、いつも思うことなのですが、こうした雑誌については、その時々において気になる記事をコピーなどして、別に保管されているものなのでしょうか。そうした記事管理を如何にされているのか、ちょっと気になるところです。 では、私はどうしているかというと、何かしら気になる記事は、その雑誌名と号数・頁数などを、当該記事の要旨及びキーワード、そして、私のコメントとともに、パソコン上のテキストファイルに保存しておくこととしています。 いうなれば、はてなブックマークの簡易版のような感じに。
■今回の調査結果をふまえて、ひとつだけ私の個人的な考えを蛇足的に掲げておきます。
【情トラ】蛇足/「情報の共有等について」
各都道府県庁レベルで発生する法的問題であれば、かなりの幅はあるのでしょうけど、その中核となるところは、ほとんど共通していることと思います。おそらくは同時期に同様の疑問が生じ、それぞれ解決策を考えているのではないかと考えられます。こうした問題に対して、ひょっとしたら、全国的または各地域ごとのメーリングリストなどがあり、大いに活用されているのかもしれませんが、情報の共有は、それほど進んではいないのではないかと推測するところです。
しかし、今回、調査させていただいた「実務上活用している書籍」などの基礎的な情報は、できるものなら、共有しておきたいと考えられている法務担当の方が多いのではないかと思います。また、それぞれの自治体において、独自条例などが制定されたときには、そうした情報を他県においても、すぐに入手できるような情報共有の仕組みがあればよいのではないでしょうか。そして、そうした情報共有が行政実務担当者だけで実現されるのではなく、できうる限り一般住民も参照できるような仕組みで実現できないかと、個人的には考えているところです。
そうした考えもあり、私自身は、そうした全ての人びとに公開された情報共有の具体的取組みとして、非常に原始的な仕組みではありますが、次のような情報共有の在り方を提案かつ実践しているところです。
■【情トラ】パブリックコメント一気一覧 - 【情トラ】附゛録゛
この「パブリックコメント一気一覧」というWebページでは、次のWebページにて取得した中央府省庁及び47都道府県のパブリックコメント実施状況を一覧化し、参照できるようにしています。
■はてなアンテナ - 【情トラ】パブリックコメント/アンテナ
実際に必要となる作業は、毎週土曜日の晩に1時間ほどかけて、各行政機関のWebサイトにおける更新情報を確認し、新たなパブリックコメント実施の情報が得られたら、その案件名および関係Webページへのリンク作成を行うという、非常に原始的なものではあります。
しかし、おそらくは、日本で最もユーザビリティの高い「パブリックコメント」に関する「(国と都道府県を対象とした)網羅的な情報共有」を実現しているWebページではないかとの自負があります。そして、それだけではなく、当該情報をメールマガジンにて配信することにより、私1人だけが少しの手間をかけるだけで、情報共有者は何ら面倒なことなく最新情報を週1回受動的に入手することができることも、情報共有の在り方として、私がPRしたい点のひとつです。
ただ惜しむらくは、こうしたパブリックコメントの情報を定期的に入手したい方が、現在、ほとんどいらっしゃらないであろうこと。まだまだメルマガの登録者数は少なく、本当に私個人だけの取組みに過ぎない状況ではありますが、これも、パブリックコメントの法制化及び条例化によって、好転するのではないかと楽観的に展望しているところではあります。
こうした具体例のような在り方であれば、たとえば、どこかに情報を集積する場所(Webページ等)を用意し、それぞれの都道府県等の条例制定情報を取得することにより、各都道府県新規制定条例一覧表を作成することによる情報共有も可能となります。
つまり、現状においては、各都道府県公報のほとんどがWeb上で閲覧することができるようになったこと*1により、全国の都道府県条例制定/改正情報をすべて一覧化して、情報共有することも可能といえば可能なのです。そもそも年に4回しか議会が開かれないわけですし、都道府県はたかだか47しかないわけですから、個人の力でも運営できるはずです(ただし、そうした情報を求める方がどれだけいらっしゃるかということも運営するかどうかの分かれ目になるわけですが。)。
その他一般的に需要があると思われる情報といえば、各都道府県において、行政手続法または行政手続条例に基づき定められ、公表されているはずの「許認可に係る審査基準」などは、充分に需要があるといえるでしょう。それも、ただ住居地の行政機関の情報だけではなく、全国網羅的に一覧化して、情報共有し、それぞれを比較検討することができれば、利用者からしてみれば便利であることこのうえないでしょうし、反対に、行政機関側からしてみれば、他の都道府県の例と比較しつつ、よりよい「審査基準の設定」が可能となることも考えられます。
以上のことをフロー化*2してみるとすると、次のようになります。
- 「情報集約」…個別にある公開情報を、その情報発信元の協力も得つつ、網羅的に集約すること
- 「情報共有」…集約した個別情報を、同種の情報が比較可能となるように、一覧化して共有すること
- 「情報循環」…共有した集約情報を、多様なアクターから意見等を募ることにより、情報循環を生み出すこと。
こうした情報の在り方は、これからの行政機関には必須なのではないかと、夢想しているところなのであります。たとえば、行政職員だけでなく、行政機関外部の一般住民も情報集約者となって、こうした情報共有/情報循環を行うことはモチロンのこと、行政機関内部においても、実際の法律問題対応事例(訴訟案件等を含む。)に関する情報を、法規担当部局が集約し、一覧化して全庁的に情報共有し、そして、よりよい対応マニュアルの策定を行うなどといったフローもありうるのではないでしょうか。
【情トラ】としては、近い将来において、そうしたひとつの情報共有/循環のモデルを提示したいと考えており、イロイロな試行錯誤を重ねていくよう努力していく所存でゴザイマスです。
■最後に、様々な法学文献を紹介されいることなどもあって、私がよく閲覧させていただいているWebサイトを、いくつか参考までに掲げておきます(サイト名の50音順にて。)。 この他にも気になるWebサイトなどがありましたら、お知らせいただければアリガタイです。
- http://hccweb1.bai.ne.jp/seisakuhomu-labo/
- http://hccweb1.bai.ne.jp/seisakuhomu-labo/kansou05.htm
- 関西自治体法務研究会において、お世話になっている方が管理人であるWebサイト。法律書感想録には、多くの書籍の詳細なレビューが掲げられています。
- 自治体法務の備忘録(Old)
- 【自治体法務】のお役立ち本リスト
- 私に法学バトンを渡していただいた方によるblog。独自条例の制定の動向等の紹介やそれに対する指摘など、たいへん興味深く拝読しております。
- 自治体法務(ホーム)パーク
- 自治体法務・政策法務関係推薦書
- 自治体法務関係者に法学バトンを渡された先生のWebサイト。法学文献の紹介にとどまらず、ご自身の手により著された論考の数々には、いままで多くの示唆を受けております。
- 川崎高津公法研究室
- 行政法(Verwaltungsrecht)
- とあるところでご一緒させていただいたこともあり、私の本体サイトで相互リンクさせていただいているWebサイト。サテライト日田(別府競輪場の場外車券売場)建設問題に関する4年以上にわたる不定期連載などは読み応えがあります。
■【追記】このエントリに対し、いくつかコメント等をいただきましたので、情報集約(!?)の意味を含め(、私が確認できたものに関して)、リンクさせていただきます(順不同)。それぞれアリガトウございます。なお、本エントリのコメント欄へのカキコミも、また、アリガトウございます。
- http://legalport.blog.ocn.ne.jp/jititaihoumu/2005/09/post_635a.html
- http://d.hatena.ne.jp/washita/20050917/p3
- the other side of ”ernst”
- Little by little and bit by bit.:すごいなぁ
- 【情トラ】附゛録゛−情報循環コメント欄
- 洋々亭 Forum「47都道府県/法務関係文献等所有状況の調査について」
- 高島平発法制・行財政研究−ひろば
- こちらは、掲示板でのコメントです。ながれてしまう前に、一応、こちらに転載させていただきます。
■法学書 投稿者: 高島平発法制・行財政研究管理人 投稿日: 9月17日(土)
情トラさん、お久しゅうございます。早速、法学文献のところを読ませていただきました。
やはり、というのが私の印象です。ただ、おそらく、都道府県によってかなりバラバラなのでしょうし、雑誌の活用の仕方も非常に気になります。蔵書ではあるが死蔵されているのでは意味がありませんから。
そして、やはり、地方自治法などの逐条解説書が多いというのも納得できます。
おそらく、役所では加除式図書がよく購入されると思うのですが、いかがでしょうか。或る業界(いわゆるサムライ業)では、意味がない、使えないなどという人が多いようですが。しかし、分野によってはかなり使えますね。
憲法の基本書があまり活用されていないというのは、実のところ、納得できます。公務員研修でも、憲法の話題を扱うようなところは意外に少ないようですし、いざ1冊を選ぶとなるとかなり難しいですから。また、全般的に、財政、地方自治などの記述が薄いので、私も困ってしまうことがあります。
実際、地方分権や市町村合併などについての憲法論だと、行政法学者の論考が役に立ったりします。
それに加えて、平等論で、新井隆一教授、北野弘久教授などの論考は役に立つと思います。実質的平等は、第14条だけでは説明できないと思われますが、何故か憲法学者の本ではこの点があまり解説されていません。
http://kraft.cside3.jp/
*1:45都道府県で閲覧可能。【参考】 http://www.geocities.jp/joho_triangle/koho.html
*2:恣意的なフロー化かもしれませんが。