民主主義とは何か〜選挙の投票について考える

◆JLC/Cチーム発表−プレゼンテーション【情トラ】案/2005-03-20版

  • 1.「民主主義」とは?

 「民主主義とは何か」といった書籍や考察は、いろいろなところで見かけることができます。そして、日本だけではなく、世界中のあらゆるところで、様々な議論がなされています。
 私たち、Cチームは、この大きな大きなテーマについて、真正面から考えてみることとしました。しかし、その大きさゆえに、目指すゴールが果てしなく遠くなってしまう怖れがありました。そのため、ひとつの切り口として、「選挙の投票について考える」とのサブテーマを設定することとしました。なぜ、「選挙の投票」を採り上げたのかについては、いくつかの理由によります。そのうち最も大きな理由は、みなさんが、民主主義と言えば「選挙」と、イメージをしやすいことにつきます。
 また、テーマをよりわかりやすく分析するために、「信頼」というキーワードに着目しました。これは、「信頼」といっても、ただひとつの意味を示すのではなく、「従来から存在する信頼」と「ここ数年のあいだ注目されてきた新しい信頼」とを、区別して考える必要があるのではないかとの主張も含んでいます。
 以上をふまえて、本日の報告を進めていくことといたします。

  • 2.「今度の選挙に行きますか?」

 さて、「選挙の投票について考える」にあたり、まずは「今度の選挙に行きますか?」との問いかけから考えてみたいと思います。 
 みなさんにも手を挙げてもらいますね。ひとつ質問です。回答の選択肢は、3つです。
 質問です。

「今度、行われる選挙に行きますか。」
■必ず行く。
■絶対に行かない。
■わからない。

 では、一般的にはどうなのでしょうか。最近の国政選挙における投票率は、60%にも届いていません。そうした投票率からすると、一般的には、「わからない」と回答する方が最も大きな割合を占めるように考えられます。

  • 3.「行かない」人は、絶対に行かないのか?

 しかし、「今度の選挙の投票に行きますか?」と訊かれて、「行きません」、「わかりません」と回答する人は、「選挙の投票へ行くことは、今後ありえない」とまで考えているのでしょうか。
1996年のものですが、「選挙で投票する」ことに関するデータがあります。この「選挙で投票する」ことに対して、「やっていく、やってみたい」との選択肢を選んだ人の割合が、「89%」との結果がでています。それに対して、「関わりたくない」、「どちらでもない」との選択肢を選んだ人は、ほぼ「5%」程度にとどまっています。
 また、昨年の10月末に、ネット上で500人を対象にアンケートをとってみました。こちらでは、「今後、国政選挙へ選挙に行くことがあると思いますか?」と質問しています。この結果は、「あると思う」との選択肢を選んだ人が「455人」で、「ないと思う」との選択肢を選んだ人が「45人」でした。
 いずれの調査結果も、今後、「選挙で投票するか」と訊かれて、約9割が、「行くことがあると思う」、「やっていく、やってみたい」と回答したことがわかります。
 これらの結果は、よく言われるところの、低投票率の原因が「無関心」にあるという主張に疑問を感じさせます。なぜならば、全く関心がなければ、「選挙に行く」という発想自体がなくなるのではないでしょうか。

  • 4.「行くことがあると思う」人は、いつ行くのか?

 もちろん、「行くことがあると思う」人は、「必ず行く」人ではありません。確かに「いつも行っている」人もいるでしょうが、行くか行かないか、わからないけれども、「何かがあれば行く」人、「何かが変われば行く」人などが、多数を占めると思われます。
 要するに、何らかの要因によって、「信頼」できる政党や候補者を得られ、その「信頼」を態度で示したいという思いが生じた場合にはじめて、選挙の投票に行こうとするのでしょう。このことを言い換えると、そうした「信頼」がないからこそ、選挙に行かないといえるのではないでしょうか。

  • 5.「信頼」をどう考えるか

 それならば、そうした「信頼」とは、どのように形成されるものなのかについて考える必要があると考えられます。
 ここで、また、みなさんに、挙手をお願いします。それぞれの質問に対しての回答選択肢は2つです。
 最初の質問です。

「ある町議会議員選挙において、次の2人の候補者がいます。A氏は『地元出身者』で、B氏は『他県出身者』。さて、どちらに投票しますか?」
 ■「地元出身者A」に投票する。
 ■「他県出身者B」に投票する。

 さらに質問は続きます。

「先ほどの候補者のうち、『地元出身者A』は、『父親の代から地元を愛する』がキャッチコピー。現在は、遠く東京暮らしで、職業サラリーマン。ここ20年は、地元で過ごすのは、盆・暮れ・正月だけ。対して、『他県出身者B』は、脱サラ後に、他県から移り住んで来た人。地元名産であるジャガイモつくって15年。子供も地元の学校に通っています。さて、どちらに投票しますか?」
 ■「都会在住者A」に投票する。
 ■「地元在住者B」に投票する。

 まだまだ質問は続きます。

「先ほどの候補者、『都会在住者A』は、地域振興策を考えるシンクタンクで活躍中。地元とよく似た地域の町おこしでは、若者のUターン人口を増やして、賞を受賞したこともあります。一方、『地元在住者B』は、ジャガイモ農家が支持基盤。訴えていることも、農業保護に関することがほとんどです。さて、どちらに投票しますか?」
 ■「町おこし奨励の候補者A」に投票する。
 ■「農業保護中心の候補者B」に投票する。

 最後の質問です。

「市議会議員選挙の争点のひとつに、隣の市との合併問題が持ち上がりました。あなたは、現段階では、役所が遠くなることを懸念して、合併反対と考えています。『町おこし奨励の候補者A』は、あなたと同じ理由で『合併反対』を訴えています。『農業保護中心の候補者B』は、合併の有無で、将来の財政等がどう異なるかのデータが足りないと、『選挙後の再検討及び住民投票の実施』を訴えています。さて、どちらに投票しますか?」
 ■「合併反対の候補者A」に投票する。
 ■「再検討要求の候補者B」に投票する。

 これらの質問を作成した意図は、次のとおりです。

    • ◆1つ目は、「地縁」を判断基準とする場合が多いかどうか。
    • ◆2つ目は、「地縁」と「血縁」を、どう判断基準とするのか。
    • ◆3つ目は、「政策問題」に関し、何をどう判断基準とするか。
    • ◆4つ目は、「争点問題」に関し、何を根拠として判断するか。

 果たして、これらの質問が、適切であり、充分なものであったか、自信がないのが本音ではあります。しかし、現実の問題も、こうしたことの積み重ねにより、判断されていると言えるのではないでしょうか。

  • 6.「普遍的な信頼」とは

 「信頼」の従来からのあり方は、「長年のお付き合い」によって形成されていくことだと思います。しかし、この手法では、どうしても、その「お付き合い」に基づく既得権の発生とその腐敗が避けられないという欠点が、近年、噴出しています。もっといえば、そうした腐敗が生じたからこそ、その「お付き合いサークル」に属していない人びとの不信感が生じたとさえいえるわけなのです。
 この堂堂巡りを打ち破るには、「信頼」を、従来からの「特定の関係に依存する信頼」ではなく、「特定化されない信頼」、つまりは「普遍的な信頼」として形成する必要があるのではないでしょうか。
 「普遍的な信頼」とは、要するに、人や組織に依存して、その関係性から信頼するのではなく、目的や理念に基づいて、それに対する評価から信頼するあり方のことだと考えます。評価が下がれば信頼はなくなり、特定化された人や組織に依存しているわけではないので、そこから離脱することにもなります。それゆえに「普遍的な信頼」は「絶対的に続く信頼」とはならずに、腐敗の危険を回避できるということになります。

  • 7.「選挙の投票」をどう考えるか。

 これらの「2つの信頼」について、先ほどの質問に絡めてみます。
 単に『地元出身者』か、『他県出身者』かという側面で判断するのは、「特定の関係に依存した信頼」に基づく判断だといえると思います。『都会在住者』か、『地元在住者』との側面で判断することも、また同様です。
 そして、「町おこし奨励」か、「農業保護中心」かによって判断することも、特にジャガイモ農家に限っていえば、「特定の関係に依存した信頼」という面が大きいと考えられます。
 ただし、ここで、ジャガイモ農家側が、農業保護こそが地元名産品の商品競争力を強め、地域の活性化につながるとの根拠を示し、主張した場合はどうでしょう。こうした場合は、たとえジャガイモ農家でなくても、農業振興に直接の恩恵がない人であっても、信頼し得る「普遍的な信頼」が形成され得るといえるのではないでしょうか。

  • 8.民主主義とは何か

 民主主義はコストがかかるといわれます。しかし、「特定の関係に依存した信頼」だけに基づいて判断するならば、ほとんど努力を要さなくなります。たとえば、「上司があの候補者に入れろというから投票する」人や、「あの候補者がお金くれたから投票する」人の場合、何の努力も必要ありません。まさに特定の関係に依存するだけの判断しかないわけです。
 しかし、「普遍的な信頼」に基づき判断しようとすれば、特別の努力を要することになります。特定の関係に依存しない分、主体的に判断する必要が生まれるわけです。それこそ、選挙の投票に際しても情報収集から問題分析、争点理解、意見調整、意思決定、そして、実際の行動と事後確認というように、多くの過程を経なければならなくなるでしょう。
 これも、先ほどの質問と絡めると、単に「役所が遠くなること」だけをもって合併反対を決めてよいのでしょうか。それとも、手間暇がかかるかもしれないけれども、財政等に係るデータを収集し、分析し、その後に『住民投票』を実施することで判断するほうが、よりよい将来が訪れる可能性が高まるのではないでしょうか。
 以上より、民主主義とは、特別のコストがかかることを自覚し、個々人は常に努力を怠らずに磨き上げていくこと、社会は教育や訓練を行う環境を整備していくことが、必要となのであると結論づけたいと思います。

  • 9.民主主義の実践のために

 最後に、それならば、どのようにして、民主主義には特別のコストがかかると人びとや社会が自覚し、常に努力を怠らずに磨き上げていくこととするのかについて、選挙に関連した具体的な取組みを紹介することとします(主要な名称を50音順に並べています(ひとつを除く)。)。

■選挙情報専門サイトElection http://www.election.co.jp/

 将来実施されるであろうインターネット選挙に向けた推進活動、バックアップ体制の確立を目指す取組み。

■政策コミュニケーション・プラットホーム http://www.seisaku.jp/

 すべての人が各々の役割に応じて、効率よく政治に参加できる、新しい社会基盤構築を目標とする。有権者が自ら期待する政策の一覧を作成し、これを各候補者の政策の一覧と比較することで、一致する度合いの高い順に候補者情報を並べ替え、誰に投票するのが望ましいかの吟味を支援する機能等々を提供する取組み。

■Seiron http://www.seiron.org/

 有権者一人一人が政治に対する興味や関心を高め、自ら考え行動することができる環境を整備する取組み。

特定非営利活動法人Rights(ライツ) http://www.rights.or.jp/

 選挙権及び被選挙権が付与されていない0歳から29歳の子ども・若者の社会参加・政治参加の促進に関する事業を行い、次世代を担う子ども・若者のエンパワメント(力をつける)をもって社会全体の利益の増進を図ることを目的とする取組み。

リンカーン・フォーラム http://www.touronkai.com/

 「公開討論会」を通じて政治家を選ぶというルールを日本に根づかせる実践活動とネットワーク創りを行う取組み。

■【情トラ】/政・官・民の情報トライアングル http://www.geocities.jp/joho_triangle/

 各都道府県庁サイトの比較評価及び各都道府県パブリックコメントへの検討並びに市民裁判員制度や地方議会傍聴などについてのやさしく詳しい解説を行う取組み。

 さびついたトライアングル取り替えて、
 あたらしいトライアングル響かせます。